質の高いリハビリ提供のためには
新たな採用活動の見直しが必要
〜質の高いリハビリ部門とは、優秀な人材が多いこと〜
9月26日厚生労働省「第24回地域医療構想に関するワーキンググループ」にて、公立・公的病院のうち424病院に対して、統合・再編の必要性を指摘され、大きな衝撃が走ったことは記憶に新しい。しかし、これは、公立・公的病院に限ったことではなく、民間病院も置かれている状況は同じである。特にこれから人口減少が著しくなる過疎地域においては、患者数の減少は確実であり、病床数のダウンサイジングや病床機能の変更などの対策を進めていく必要がある。
このような厳しい経営環境のなかで「リハビリには期待している」という経営者は多い。特にリハビリ部門では、診療報酬制度において、急性期病棟では、初期加算、早期加算を算定すれば疾患別リハビリ料の単価が高くなる。また、回復期リハビリ病棟では、9単位近く算定している場合、患者1日当たりの収益の半分は疾患別リハビリ料であり、地域包括ケア病棟では、入院料の要件に「必要な患者に対して1日2単位以上」が入っている。さらに、他の病棟でも在宅復帰支援においては、リハビリ部門の活躍が必要であり、訪問リハビリや通所リハビリは、かつての外来リハビリの機能に変わる存在になっている。つまり、かつて「入院・外来診療のオプション部門」だったリハビリ部門が、「今ではなくてはならない部門」となっており、これから高齢者が増加する地域においては増々、その重要度が増してくるのである。
しかし、残念なことに「期待してリハビリ部門の人員を増加しているのだけど、どうも経営方針を理解してもらえない」という声も聴く。今後のリハビリ部門は、好き勝手に技術だけを磨くよりも、病院の方向性に合ったリハビリ提供体制を構築する必要がある。そのためには、いかに優秀な人材を採用し、かつ育成していくかがカギとなる。よって今回は、現在、筆者が多くの病院で行っている採用活動の取り組みについて紹介する。
再び激変の兆し、
ケアマネジャーへの
新たな処遇改善は実現するのか。
社会保障審議会介護保険部会における、2021年介護保険法改正の審議が終盤を迎え、12月には取りまとめられる。来年の5月には国会で改正介護保険法案が成立する。 そのような中で、居宅介護支援が再び激変の兆しとなっている。利用者の自己負担1割の導入が、大きな論点となっているのは既報の通りである。
ここで唐突に浮上した論点が、ケアマネジャーへの新たな処遇改善である。10月より介護職員等特定処遇改善加算が始まったが、居宅介護支援は対象外サービスである。その結果、ケアマネジャーより介護福祉士の賃金改善が上回る事態になっている。そのような中で、昨年度のケアマネジャー試験受験者が前年比で6割減であったことは、大きな衝撃として伝えられた。いま、地域のケアマネジャーが不足している。介護保険制度創世記に資格を取得したケアマネジャーが、制度が始まって20年目を迎えた今、世代交代の時期を迎えている。古参のケアマネジャーの引退が相次ぎ、ケアマネジャーを募集しても応募が殆ど無いと言う地域も出始めている。その引退の契機となったのが、昨年の改正での管理者の主任ケアマネジャー要件である。主任ケアマネジャーを取得するにも、維持するにも、長時間の研修受講が必要だ。1人ケアマネジャーが半数を占める居宅介護支援にあって、その時間の確保が難しいのだ。すでに主任ケアマネジャーを持つ有資格者からも、多忙を理由に、更新講習の受講を諦めるとの話を聞くことが多くなってきた。小規模の居宅介護支援事業所にとって、主任ケアマネジャーのハードルは高い。
居宅介護支援の報酬体系を見ても、特定事業加算を算定しない限り事業収支が赤字である報酬設定だ。平成29年度介護事業経営実態調査での収支差率でも、マイナス1.4%と唯一の赤字サービスとなっている。その状況での、管理者の主任ケアマネジャー要件である。居宅介護支援事業所の運営と維持には多大な労力が求められ、さらに収益性は低いことから、事業としての魅力が乏しくなっている。これでは、ケアマネジャーのなり手は減少し、ベテランは引退に追い込まれる。
自立支援を進めるための
利用者・家族とのコミュニケーション
〜5つのステップで考える合意形成の具体策〜
■自立支援と
利用者・家族の意向
介護保険の基本的な考え方である「自立支援」や「重度化予防」については、今後の介護保険制度改正、介護報酬改定でもメインテーマとなるでしょうし、これまでの連載でもとり上げてきました。
最も基本的な方向性であることは言うまでもありませんが、利用者・家族は諦めていたり、もっと言えば「お世話型」「代行型」のサービスを求めることも少なくないのが実際ではないでしょうか。
私たちは専門職として、多職種の協働の中で、自立支援や重度化予防がどこまで可能かを見極めながら、その可能性について利用者・家族と共有していくことが大切です。「利用者・家族が望んでいないから」という理由で、自立支援や重度化予防について検討しなくなることは、専門職として適切ではないでしょう。
今回は、自立支援や重度化予防を進めるにあたっての、利用者・家族とのコミュニケーションや利用者や家族、専門職間で考え方や意向が異なる場合の合意形成の方法についてみていきたいと思います。
改革への逆行は社会福祉法人の
経営力の弱体化を生む
〜旧厚生省が産み落とした
公益法人、社会福祉法人の正念場
令和元年11月5日(火) 、自民党の社会保障制度調査会介護委員会が開催された。同委員会の委員長は元厚生労働大臣の田村憲久氏である。厚生労働省老健局から「介護保険制度改正に関する議論の状況について」、及び社会・援護局から「地域共生等の施策に関する議論の状況について」種々の説明があり、その後、自民党議員側からの質疑や意見が出された。
社会福祉法人制度改革の一環
としてガバナンス・内部統制
強化を旗印にして導入が決められている「会計監査人設置社会福祉法人」の適用範囲事業規模拡大の可否についてのテーマも内容として含まれていたが、一部の国会議員の意見の内容に社会福祉法人の業界を「過保護に」支援する国会議員の毒親ぶりが改革拒否カルチャーの根深さを感じさせた。それは、見事に社会福祉法人制度改革の本旨と大きく逆行させる意見でもあった。
●「会計監査人の設置基準引下げは反対。社会福祉法人は多種多様な種別があり、金額による一律の線引きは妥当でない。保育では自治体域を超えると施設間での資金を移すことはできない仕組みとなっており、 行政からの監査も毎年の施設監査、3年に1回の法人監査等により、悪いことができない。中小企業で売上 10億で会計監査人設置ということにはならず、社会福祉法人だけ基準引下げることは「社会福祉法人は悪いことをする」と疑っているようなもの」
→当該意見は前提条件がトンチンカンのため、失言レベルである。学校法人の会計監査設置基準をご存じ無いらしい。かつお花畑な「性善説」で、古き良き日本を思い出させてくれる。
組織変革時に求められるリーダーシップ
〜まずは危機意識を高めることから〜
令和元年9月26日に地域医療構想に関するワーキンググループにおいて、国は、公立・公的医療機関等の役割について、再検証すべき対象となる424病院の実名を公表した。公立・公的医療機関等は民間では担えないものを中心に据えるべきという前提であり、具体的な役割として、がん、心血管疾患、脳卒中、救急、小児、周産期、災害、へき地、研修・派遣機能をあげており、これらの9つの領域で全てにおいて実績が少ない場合を(A)とし、がん、心血管疾患、脳卒中、救急、小児、周産期について、構想区域内に一定数以上の診療実績を有する医療機関が2つ
以上あり、お互いの所在地が自動車で20分以内の距離(類似かつ近接:B)を対象とした。
このリストに挙げられた医療機関にはかなりの衝撃があり、形式的であるなどと異議を唱えるところもあれば、自らの立ち位置を真摯に考え直さなければならないと感じているところもあるようだ。もちろん再編統合は424病院だけの問題ではなく、中核病院等も含め地域全体で議論していかなければならない。ただ、再編統合のためには有効なリーダーシップが発揮されてはじめてなしうるものであることは間違いがない。相手の顔色をうかがいながら、事なかれ主義的に進めていこうとしても事態は一向に改善しないだろう。地域医療を守るために誰かが本気になってリーダーシップを発揮する必要がある。
地域包括ケア病棟は、
個別リハビリ以外のリハビリ提供体制を強化
〜生活場面へ直接介入するPOCリハビリの導入〜
2006年の診療報酬・介護報酬改定以来、リハビリの提供体制は、医療から介護まで一貫してリハビリセラピストと患者・利用者の1対1で実施する個別リハビリ方式が中心となった。また、そのなかで行われていたのは、心身機能の回復を目的としたハンズオンの徒手的介入であった。しかし、2015年の介護報酬改定前に行われた、「高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会報告書」では、心身機能に偏ったリハビリ提供が痛烈に批判され、「活動と参加」のリハビリに大きく舵を切った。さらに、翌年2016年の診療報酬改定においても、同様に「回復の限界を十分考慮せず、心身機能へのリハビリテーションを漫然と提供し続けた結果、活動、参加へのリハビリテーションを展開する機を逸し、結果として患者の社会復帰の機会を妨げてしまう可能性がある」との痛烈な批判によって、制度としてのリハビリの方向性は、医療、介護を通じて一貫して活動と参加となった。
しかし、活動と参加は、患者・利用者本人へのアプローチだけでは目標達成はできず、家族や地域を含めたアセスメントの実施や医療、介護、福祉を含めたアプローチが必要となった。しかし、現場で働くリハビリセラピストの多くは、心身機能を中心とした医学モデルで教育された人材が圧倒的に多く、未だに心身機能中心のリハビリ提供体制から抜け出せないリハビリ部門も多い。もちろん、急性期や回復期などで心身機能の回復が必要な患者に対する個別リハビリは必要であるが、心身機能の回復が停滞した患者や発症から長期間が経過した介護分野の利用者にとっては、必ずしも全員に毎回の個別リハビリが必要かどうかを今一度検討する必要がある。特に、出来高払いではない地域包括ケア病棟や通所リハビリの3か月超えの利用者には個別リハビリ以外の方法での提供体制を構築する必要が出てきた。
次期制度改正の大胆予想と
2040年対策の影響
10月の消費税増税を持って、政府が進めて来た社会保障と税の一体改革が終了した。この政策は2025年問題対策である。この対策に一区切りがついたことで、政府は今後、2040年問題への対策に全力を注ぐことになる。2040年問題とは、団塊ジュニア世代が65才を迎え、85才以上の高齢者が1000万人を超える。これに対する政策が、全世代型社会保障制度である。内閣府は全世代型社会保障検討会議を設けて9月20日に初会合を開いた。年内に中間報告、来年の骨太方針までに最終の取りまとめを行う予定だ。問題は、高齢者対策であり、社会保障制度の見直しについて、どこまで切り込むかであろう。全世代型社会保障検討会議は経済産業省主導とも言われており、ICT化や介護ロボットなどの導入促進は間違いない。12月の中間報告は、年内に取りまとめられる2021年介護保険法改正審議や来年の通常国会に提出される改正介護保険法案にも影響を与えそうだ。来春から始まる2021年介護報酬改定への影響は避けられないだろう。社会保障審議会介護保険部会では、8月29日に「持続可能な制度の再構築・介護現場の革新の論点」の8つの検討課題が示された。その本格的な審議は11月からであろうが、年内に意見書を取りまとめることから、この重要な論点をたった数回の審議で終えることとなる。全世代型社会保障検討会議の影響が感じられる。その8つの論点については、前月に既に触れているが、その動向についての大胆予想を行ってみたい。
ケアマネジャーに求められるスキルとは?
〜改めて考える、ケアマネジャーが身につけるべきもの〜
これまで、連載9回の中で、ケアマネジャーに求められるものを様々な観点から見てきました。前回、前々回では、基本となる「尊厳の保持」と「自立支援」について、その定義も含めて見直しをしました。この2つについては、介護保険制度の目的であるとともに、ケアマネジメントの目的であることは言うまでもありません。この2つの目的を達成するために、ケアマネジャーに求められるスキルとは何か?ケアマネジャーが身につけるものは何か?今回は改めて考えてみたいと思います。
➊「尊厳の保持」「自立支援」
まず、中核となる「尊厳の保持」「自立支援」についてですが、これらについては前回・前々回で詳しく述べましたので繰り返しません。「重度化予防」という観点も重要ですし、「権利擁護」という観点も忘れてはいけません。
科学的裏付けに基づいた
介護データベース「Chase」と
「健康寿命の延伸」という名の国策
厚生労働省老健局は、令和元年7月16日に、「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会取りまとめ」(以下、「取りまとめ」という。)を公表している。平成28年秋頃の「要介護度改善にディスインセンティブ、改善の取り組みを市内事業所はディスインセンティブ」という政府の未来投資会議によるセンセーショナルな提言により、
業界団体や職能団体から猛反発をされたにも関わらず、平成26年5月30日設置の「内閣人事局制度」の威光により、棚上げも塩漬けにもならず、生き延びているのが科学的介護に係る政策である。しかし、我が国の業界団体や職能団体を神経質に配慮する習慣・カルチャーにより、非常に神経を尖らせながら進めている印象を受ける。「取りまとめ」に、こんな表現がある。
「科学的介護を推進していくにあたっては、介護保険制度が関係者の理解を前提とした共助の理念に基づく仕組みであることを踏まえつつ、様々な関係者の価値判断を尊重して検討を行っていくことが重要である。」あたかも、医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・介護支援専門員・社会福祉士等々の職能団体やサービス別業界団体の意向や意見を踏まえた上で、同意を取らなければ決められないとの叫びのようである。
また、このような表現もある。
「平成12年に開始された介護保険制度は、単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするというだけではなく、高齢者の尊厳を保持し、自立した日常生活を支援することを理念とした制度であり、利用者のニーズに対応して多様なサービス類型が用意され、また個々の類型の中で、独自の工夫を行っている事業者も多いが、そのアウトカム等について、科学的な検証に裏付けられた客観的な情報が十分に得られているとまではいえない状況である。」
なぜ同族企業の業績は優れているのか
〜優れた病院経営者が必要〜
❶同族企業の功罪
同族企業というと我が国ではマイナスのイメージがもたれるケースが少なくない。大王製紙事件では創業家である会長が不正に会社資金を引き出し、個人的なカジノの賭けのために私的に流用するという横領が行われた。大塚家具のお家騒動も記憶に新しいがその後、大塚家具の業績は悪化している。
しかしながら、海外に目を向けるとウォールマート、ポルシェなど世界的企業にも同族企業は存在している。ハーバード大学のラポルタらによる研究結果では、創業家一族が株式の20%以上を保有しているのは、世界の27か国で平均30%だという。
我が国の上場企業でもおよそ3割が同族企業であることがカナダのアルバータ大学のメロトラらによって明らかにされており、諸外国と同程度ということになる。つまり、同族企業は我が国特有の問題ではないということになる。
実際に我が国で勢力を拡大する民間グループ病院をみても、同族経営であることが多いようである。グループ経営では規模の経済性が働くから経営学の視点から有利であるともとらえられるが、それだけではない一族でなければ伝えられない帝王学のようなものがあることを意味しているのかもしれない。