財務省の財政制度等審議会が5月29日、春の建議「歴史的転機における財政」を取りまとめた。岸田政権の「異次元の少子化対策」を実現するため、社会保障政策での財政圧縮を求める項目が並ぶ。中でも、関係者内で囁かれているのは「今回の標的は、医療はもちろんだが、介護だ」。次期改定は診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬のトリプル改定だが、建議では介護関連の削減項目が目立つ。
「こども・子育て、少子化対策は大変重要な政策だが、病や障害に苦しむ方々のための財源を切り崩してはならない」―。建議に先立つ5月25日、日本医師会など医療・介護分野の12団体は「医療・介護における物価高騰・賃金上昇への対応を求める合同声明」を発表した。声明では、診療報酬や介護報酬の公的価格で運営する医療機関は急激な物価・賃金高騰を価格に転嫁できないとし、トリプル改定での必要な財源確保を要請した。
正攻法でない議論に看護も困惑
2024年度診療報酬改定議論を前に、急速に注目が集まっているのはナース・プラクティショナー(以下NP)だ。政府の規制改革推進会議が昨年末の中間答申で、NPを含む医療界のタスクシェア/シフトの推進を今年夏までに検討することを打ち出し、岸田首相も具体化を進めるよう指示した。日本医師会や病院団体は徹底抗戦の構えだが、当の日本看護協会は自ら望んではいない、正攻法とは言えない展開に困惑している。
ナース・プラクティショナーとは日本看護協会によると、大学院修士課程における専門課程を修了し、NPの免許取得や登録をした看護師であり、医師の指示がなくとも一定レベルの診断や治療などを行うことができるもの。米国では医療過疎地などで、初期症状の診断や処方、投薬を行うことができる。
厚生労働省でも10年から13年に開いたチーム医療推進会議で一定の機能をもつ「特定看護師」の創設を議論したが、日本医師会などの猛烈な反対に遭い頓挫し、特定行為に係る看護師の研修制度の15年の創設に至った経緯がある。同制度は、研修を受けた看護師が医師や歯科医師の判断を待たずに医師らの発行した手順書を基に、一定の診療の補助(脱水時の点滴など)を行えるようにするものだが、行える診療行為は研修を受けていない看護師のそれと変わるわけではない。日本看護協会は、特定行為研修制度では対応できない医療ニーズがあると指摘し、NP創設に向けた早急な検討開始を求めている。
それを渡りに船と取り上げたのが政府の規制改革推進会議だ。これまでにさまざまな規制改革を進めてきたが、そろそろネタが尽きてきた。そこで国民にもある程度インパクトがあるNPの創設を含めたタスクシフト/シェアをテーマにしたわけだ。
波乱の医療法改正案
2月10日に国会に提出された「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」では、かかりつけ医機能が発揮される制度を整備するための医療法改正案が盛り込まれた。昨年春に岸田首相がかかりつけ医機能の明確化を指示して以降、全世代型社会保障構築会議を横睨みしつつ厚生労働省の社会保障審議会医療部会が急ピッチで検討を進めてきた。12月末の意見取りまとめ後も、内容が二転三転する波乱含みの法案だ。
医療法改正では、かかりつけ医機能の定義を「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能」として法定化する。医療機能情報提供制度を刷新し、かかりつけ医機能等の情報を提供できるように内容の充実・強化を図る(24年4月施行)。
かかりつけ医機能報告制度の創設(25年4月施行)では、病院と診療所を対象に▽日常的な診療の総合的・継続的実施▽休日・夜間等の対応▽入院先の医療機関との連携、退院時の受入れ▽在宅医療の提供▽介護サービス等との連携―などを報告することを規定する。これらの機能は複数の医療機関で連携して確保することも可能だ。
報告内容の客観性を担保するため、都道府県知事は報告された医療機関の機能について該当するかを確認して公表する。都道府県知事の確認を受けた医療機関は、必要な場合に、患者や家族の求めに応じてかかりつけ医機能として提供する医療の内容を書面などで説明するよう努める(25年4月施行)。提供する内容は疾患名や治療計画、病院・診療所の名称や住所、連絡先などとする。
都道府県に既に設置されている外来医療に係る協議の場の協議事項に、かかりつけ医機能の確保を加える。医療計画等の記載事項にも追加し、協議の場の議論を経て医療計画の中間見直しを行う。協議には市町村が加わり、市町村介護保険事業計画にも反映させる。
かかりつけ医機能については、岸田首相の指示のほか、財務省の財政制度等審議会や骨太の方針2022、全世代型社会保障構築会議などで提言されてきた。社保審医療部会が昨年12月にとりまとめた意見書では、複数の機能を持つ医療機関としていたのを、日本医師会がハイスペック医療機関とそれ以外に選別することだと注文をつけ、法案では単独の機能でも可能と後退した。